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2025.10.06
義肢装具士とエピテーゼ ー田舎から生まれる、もう一つの乳房再建ー

乳がんの治療後、多くの方が直面するのが「乳房の再建」という課題です。外科手術による再建やインプラントなど、医療の選択肢は少しずつ広がってきました。

しかし、手術を望まない人や体調や年齢などの理由で再建が難しい人も少なくありません。そんな時にもう一つの選択肢となりうるものが「乳房エピテーゼ」です。

田舎の女性義肢装具士の挑戦

義肢装具士は、「からだを補う道具」をつくる専門職です。義肢や補装具の設計・製作を通して、治療や生活を支える役割を担っています。そして、そんな義肢装具士の一人である私は、義肢装具の製作と並行して「乳房エピテーゼ」の製作に取り組み始めました。

(有)大沼義肢整形器製作所は、岩手県花巻市にあります。

岩手県花巻市は、岩手県のほぼ中央に位置し、西に奥羽山脈、東には北上高地の山並みが連なる肥沃な北上平野に位置し、季節ごとに変化に富んだ自然風景が広がる美しいまちです。

そんな自然豊かな街で始めた「乳房エピテーゼ」ですが、全ての乳がんを抱えた人たちが必要とするわけではありません。しかし、「乳房再建」について課題を抱えている人は多いと感じました。また、そんな課題を抱えている人に対し、「乳房エピテーゼ」という選択肢を提案できることに心を動かされ挑戦してみようと決めました。

挑戦は、まだ始まったばかりです。ラジオやテレビで知っていただいた方から依頼をいただき、手に取っていただく機会も出てきましたが、まだまだ必要な人に情報が届いていないなと日々奮闘しています。

アピアランスケアの一環として

医療の現場では「アピアランスケア」という考え方が広がっています。

しかし、治療によって変わった外見を整える「アピアランスケア」は、地方ではあまり知られているとは言えません。それでも、勇気を出して相談してくれる人、技術に挑戦する製作者、支える家族や地域――小さな挑戦は確実に広がっています。

「アピアランスケア」は、治療によって変化した外見を整えるだけでなく、「その人らしく生活できるように支える」ケアです。乳がん治療後の乳房エピテーゼは、まさにアピアランスケアの一部といえるでしょう。鏡の前に立つときに少しでも自然でいられることが、社会への一歩、笑顔への一歩につながります。

乳房エピテーゼは、まるで本物のように精巧で、肌の色や質感もオーダーメイドで作れます。義肢装具士として体の一部を作る手仕事は乳房エピテーゼとも通じており、自分の力が役立てられるのではないだろうかと習得しました。少しずつでは、ありますが乳房再建にメスを入れない新しい治療としての手応えを感じています。

助成制度とこれから

課題の一つは費用です。エピテーゼは熟練した手仕事で作られますが、保険適用外となることがほとんどです。しかし、自治体によっては「補装具費助成」や「アピアランスケア支援」などの名目で助成金を設けているところもあります。情報を知っているかどうかで負担は大きく変わります。

岩手県花巻市では、がんと診断された花巻市民の方で乳房切除術を受け、乳房補整具(体内に挿入する人工乳房を除く)を購入した方を対象に、購入費用の2分の1(上限2万円)の補助が適応されます。(※2)

(※2 引用:花巻市HP

https://www.city.hanamaki.iwate.jp/kenko_iryo_fukushi/oshirase/1019883/1012361.html)

今後、より多くの人が安心して選択できるように、制度の充実が求められます。そのためにも、製作者や患者さん自身が声を上げ、小さくても取り組みを広げていくことが大切です。

おわりに

乳房再建の道はそれぞれです。

乳房再建を選ぶ勇気も、選ばない勇気も大切にしたい。

手術による再建を選ぶ人もいれば、自然のままを選ぶ人もいます。そして、エピテーゼという選択肢もまた、その人らしく生きるための大事な道の一つです。田舎の工房から始まった小さな挑戦が、同じ悩みを抱える誰かの「新しい一歩」にアピアランスケアの新たな形として広がっていくことを願います。